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耳の形成外科(4): 立ち耳の手術

ミッキーマウスのように左右に張り出した大きな立ち耳は、欧米では悪魔の耳、動物の耳として嫌われます。したがって、耳を寝かせる手術は、私がドイツ留学中も毎週のように行われるありふれた手術でした。手術の予定表にOtapostasisと書かれているのがそれで、私も自分の普段行っている手術とどの辺が違うのか知りたくてよく覗きに行きました。

立ち耳は、アジア世界ではむしろ、愛嬌がある、可愛らしい耳として愛される傾向があり、強制的に寝かせる手術はそれほど多くは行われません。私も留学前は、左右の立ち方に差がある患者さんの片方の耳を反対側に揃える手術をするぐらいで、あまり立ち耳の手術を積極的には行っていませんでした。留学中に仲良くなったトルコ人の看護師さんは、
「ドイツ人は何でも箱に詰めたように真四角にしたがる。耳まで頭蓋骨にくっつくほどぺちゃんこにする」
と少々嫌そうにしていました。

しかし、最近では日本人の感覚もだんだん欧米化してきたのか、立ち耳の手術を希望される方が増えてきました。立ち耳は確かに耳の軟骨の形の異常ではありますが、上記のように長い間伝統的に日本文化の中で許容されてきたために、まだ「健康保険の適応手術」とは見なされておらず、そうした手術の費用も定められてはいません。したがって、大江橋クリニックでも現時点では(大きく左右差があって異様な感じがする場合等を除き)自費で手術を行っています。

耳は大雑把に言って、斜め後方45度ぐらいの角度に寝ているのがよいとされています。この角度に寝かせるためには、耳の付け根のところを切開してまず邪魔をしている組織を切除し、軟骨も軽く切開を入れて癖をつけます。切らない手術と称してこの段階を省き、糸をかけて引き寄せるだけの手術を行う所もあるようですが、耳の軟骨は非常に強い復元性と弾力があるため、糸だけで引き寄せた耳は糸が切れれば元に戻ってしまいます。ナイロン糸は丈夫なのでなかなか切れないとはいえ、糸が切れなければ今度は軟骨のほうが徐々に裂けますから、結局糸をかけただけの手術は永続性がないといえます。(これは重瞼の埋没法と似ています)

耳の後の組織を切除した上で糸を頭蓋骨の骨膜と耳の軟骨膜にかけ、二つの硬い膜を密着させて固定します。こうしておけば、いずれ膜の間に瘢痕組織ができて固まり、糸が切れても元に戻ることはなくなります。

立ち耳の場合、単に耳が起きているだけでなく、軟骨の折り込まれかたも少なく、平らに伸びていることが多いので、これを整えるには軟骨の表面に、曲げたい方向に合わせて軽くメスを入れていきます。通常は「対耳輪」と呼ばれるY字型の山脈を作っていくのですが、この際には、耳介軟骨は浅く切開すると切開したほうを凸にして膨らむ、という性質を利用します。これだけでもよいのですが、より確実にはできた形を固定するために、重要なポイントを何箇所かナイロン糸で結び合わせていきます。

軟骨が「露出していれば」これはそれほど難しい作業ではありません。しかし、実際には耳の軟骨は皮膚に覆われているので、切開する前に皮膚と軟骨を剥がさなければならないことになり、これをどの程度、どのような皮膚切開から行うかが結果を左右します。
以前は皮膚切開は耳の裏側だけにとどめ、そこからみかんの皮をむくように皮膚を軟骨から全部剥がしてしまっていましたが、この方法だと形はきちんと作れるものの、腫れが長引き出血の危険も大きいので、最近では耳の表面の目立たない部分も切開して、なるべく侵襲の小さい手術を心がけています。

耳が頭蓋骨につくほどぺったりと寝かせてしまうヨーロッパ式の手術はむしろ簡単で、斜め45度の微妙な角度をうまく作り出して不自然さをなくすところにこの手術の難しさがあります。一度の手術では左右がきれいに揃わないことも残念ながら皆無ではありません。そうした場合は再手術の時期をご相談しながら、できる限りご希望に近づけるように努力しています。

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