耳の形成外科: 小耳症の手術(2)
小耳症の手術は、肋軟骨フレームを移植して終わりではありません。フレームと皮膚が十分なじんだ頃に、通常は耳起こしとよばれる手術を行います。
頭蓋骨に張り付いたようになっている耳を起こして、耳の裏側を作ってやるわけです。当然そこにはあるべき皮膚が存在しないわけなので、周囲の皮膚を動かして皮弁という方法で塞いだり、足りない部分を植皮する必要があります。(最近ではこの2段階手術を避けるため、最初に軟骨を入れる部分を袋状に膨らませておく手術も行われていますが、これはこれでまた、皮膚がちょうどよく伸びるまで数ヶ月の時間がかかります)
中には耳に当たる部分にも髪の毛が生えているために、作った耳に毛が生えて困る、といった方もいて、脱毛処理が必要になったり、軟骨や皮膚のつなぎ目の一部がトラブルを起こして小さな修理が必要になったりと、やはりどんなに上手な先生が作った耳でも、神様が作った自然な耳にはかないません。
また肋軟骨は、耳の軟骨とは性質が違い、硬くてもろく、継続的な力が加わると変形したり吸収されてしまうという欠点もあります。そのため、自然な耳よりもしっかりと分厚いフレームが必要になり、やや肉厚で硬い耳になってしまいます。これを避けるには、やはり肋軟骨ではなく耳の軟骨を使うほうがいいのですが、まだ日本では「他人から軟骨を貰う」同種移植は普及していません。
幸い耳介軟骨は移植に際して免疫反応が起こりにくく、他人の軟骨でもちゃんと自分の耳のフレームになってくれます。生体からの耳介軟骨移植では、小耳症ではありませんが冨士森先生が母親から子供への移植を以前から成功させておられ、長期にわたって安定的に生着することを学会でも発表されています。(…発表したのは、当時冨士森先生のところに在籍していた私なので、よく覚えています…)
シリコンなどの人工物では不安が伴う以上、自分の「幹細胞」で軟骨が思い通りの形に作れるようになるまでは、死体からの耳介軟骨移植などを移植医療としてもっと普及させてもいいのではないかと思うこのごろです。
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